着物を一反染める工程は分業で成り立っていることを前段で述べました。
後段ではその分業の中でも相当な部分を二葉苑は自前で行える事、それがいかに特殊か、そして一反の染物がどのような動きをするか解説します
。工房の図面です。
まず、引場
一反(12m)の反物を宙づりにして端から大きな刷毛を使って染めていきます。あまり長い時間をかけて染めていると気温の違いで色が変化してしまうので15分~20分程度で引き染を完成させます。刷毛の毛先を使って染める時にはとても綺麗な音が出ます。その映像はこちらをどうぞ。https://www.youtube.com/watch?v=rCE_YEk59ko
一反ずつ染めるので、同じ色で複数反染めるには不向きです。逆に色を少し変えるだけで、オリジナルの着物が染まります。引き染め専門業者があるぐらい専門性に長けており、色づくりから染め上げるまで一流になるには10年はかかるのではないでしょうか。
友禅作家の方は柄をご自分でデザインし、それを染めていきます。地色の部分はこの「引き染め」専門業者に発注してデザインに合う色見で地色を染めていきます。蒸して糊を落とす作業までを引き染め業者が自前で行っている事もあれば、蒸し水元(糊を落とす作業)をこれまた外注することもあります。蒸しで色見が変化しますから、これは要注意。沖縄紅型工法などでは、顔料を使うことが多いですが、地色を染める部分は引き染めで染料を使います。染料は蒸すと色見が変わるので、予定した通りの色見にならない事が多く「色を合わせる」ことは非常に困難な作業で、熟練の技が必要になります。このような専門性に長けている業務を二葉苑は自前で行っているのです。
蒸し/水元だけ受けてもらえないかいう相談も入りますが、これはやりません。蒸し/水元代金は頂けて5000円程度友禅作家さんが制作した〇〇万円もする着物の水元は気を遣うだけでなく、リスクも伴います。リスクに対して見合いが悪いのです。蒸して色見が変わった!色移りがした!などのリスクを負ってまで、引き受けができないのです。お願いしていた蒸し屋が廃業したのでお願いします、と懇願されたこともありますが、残念ながらお引き受け出来なかったです。
分業で作業をすることに、一定のリスクが伴うのです。それは「廃業」されたら、もう制作出来なくなる!事です。二葉苑は100年にわたり着物の製造を行ってきました。その過程において、なるべく自前で行うよう努力する癖がついているので、それこそが長く継続して染工房を守ってこれた所以なのです。
次は板場
板場での体験用の擦り作業
板ばかりおいてます。板の上には餅粉が塗ってあり、水を吹きかけるとべとべとします。ここに生地を張りつけて布をぴんとします。その上に型紙を置いて染めていきますが、星といって型紙同士の柄がぴったり合うように目印がついてます。星は美しくきれいに染める更紗工法には欠かせません。毛先を使って優しく染めます。力はいりません。
柄を染めた後は伏型紙を使って、柄部分に染料が入らないように蓋をします。糊付けです。こうすることによって上から大きな刷毛で染めても柄に部分は防染できるので、地色の部分だけがそまります。ですので、刷り上がりといって更紗の型紙だけで、地色まで染める事もああれば、途中まで染めてそれ以外の型紙は使わず、引き染めをすることもあります。少し染め方を変えるだけで、柄は大きく見た目が変わり、別物になります。
糊ではなく蝋で伏せる事もある。その場合は筆で一つ一つ蝋を置いていく根気のいる作業の写真
板場と引場を行ったり来たりしながら一反の染は美しい着物の反物に仕上がっていきます
蒸し/水元
こちはら先ほど述べたように、染料を定着されるために、蒸し機に入れて布に高温にします。顔料などでも定着のために、高温のアイロンをかけたりします。これにより色落ちはしません。ここが分業で外注していたら、外注費用がいくらかかっても足りないだろうな、とか工程が長くなるだろうなとか制作工程期間には大きく影響するでしょう。蒸し機は布を蛇腹にかけて蒸し器に入れます。同じ場所をてっぺんにしておくと染料が垂れて、蒸し当たり(むら)になったりしますので、定期的に蒸し器から取り出してっぺんの位置を変えたりします。夏場はこの作業がきついです。暑い上に熱いですから。
蒸し機に入れる準備の写真。蛇腹に布をかけます。
この後糊を落とす作業です。昔は川で糊をおとしていました。
こちらは教室の皆様が体験で最後に糊を落としている写真
水元のあとは干して乾かします。染められた布を見るのは本当にうれしいですね。この風景は染屋の特権
この後さらに加工に出すのです。これは湯のしといって、生地を整形し、布につやを出し、製品として最後の工程です。蒸気を当てながら整形していきます。これには特殊な機械が必要です。が、もはや国内では生産されておらず、現在あるものを手で直しながら使い続けていくことしかないようです。こちはら二葉苑でも内製できず、外注しています。中井の町には湯のし屋さんが多く点在し、現在でも3件ほどある湯のし。染屋には欠かせない存在です。
このようにして反物はこの後、お仕立てに出されるのです。。。。
まだまだ続く。分業について